美味しんぼ完全感想コーナー~きょうのしろう~#001-第1話Bパート

コーナーの紹介

このコーナーでは、新井(あらい)・上妻(あがつま)の両名がそれぞれの視点から、1988年10月17日から1992年3月17日まで、日本テレビ系列で放映されたテレビアニメ『美味しんぼ』全136話について、毎回感想を発表していきます。ことの発端は、新井さんがアマプラで『美味しんぼ』を何周もみてしまったことがきっかけですが、上妻も幼少期に美味しんぼの単行本を買っていたというノスタルジーからこの企画はスタートしています。「きょうのしろう」という副題の通り山岡士郎の人間像にもおもしろおかしく迫っていこうと考えています。

「食通」ってなんだろう?

というわけでBパート。Bパートはなかなか面白い絵から始まっていてですね。階段を駆け降りるとか書類をぶちまけると言ったコミカルなシーンがあったり銀座線の電車の描写とかもよく動いていてアニメーションっぽいなぁと…。財布の入った上着無しにどうやって帰ってきたのかってのが一番気になりますが。

で、このBパートのテーマはなんだろうと考えると「食通ってなんだろう?」ってことだと思うんですね。で裏テーマが「大原社主の転向」なんじゃないかと思うのです。話の大筋は不自然に育てられたダチョウの肝臓、つまりフォア・グラよりも自然の中で育ったアンキモの方が美味しいに決まってるだろ!って話ですね。

まぁ、なかなか考えられていますよね。「風の戦士ダン」の雁屋哲!島本センセー!!

「きょうのしろう」あしたのジョー

で、そこで「きょうのしろう」ですよ。

各界からお集まりの食通の方々に対してですよ、「日本の食通と奉られてる人間は、こっけいだねえ」背もたれに両腕をかけてこれですよ。『あしたのジョー』みたいな。両手ブラーンするんじゃないかという勢いで。

続けて「外国人がうまいっていうからその尻馬に乗ってありがたがっているけれど、有名ブランド商品をありがたるのと同じ、中身じゃなくて名前をありがたがっているんじゃないの?」というまた態度は悪いけれど、的をいたセリフを放つわけですよ。芸能評論家の川本広増氏に向かって。ちなみにこの時、作家の高岡兵郎氏はフォア・グラを「まさに美味中の美味」と評しています。

つまり、作者は食通というステレオタイプは「中身じゃなくて名前をありがたがる」という特徴を持っている、そしてそれは「正しくない」と山岡を通して言ってるわけですね。

まぁ、そんなこんなでねアンコウ取りに行くわけですよ。で取れちゃう。冬の魚。5月なのに。新入社員が入ったばかりの季節なんだから、そんなの取れるわけないんだって。で、船の上では何度となく栗田さんが船酔いで吐いてるんだけれども、取れた途端に船酔いが収まるのね。処女懐胎みたいなやつかと。

「颯爽とした身のこなし、見事な包丁さばき、グータラな山岡さんとは別人みたい…」というね胸キュンポイントというか、「プラス評価?」で、なんというか恋愛ものも意識してますよという。演出的な気配りも…。

第1話Bパートの裏テーマ「進歩的な歴史観への転向」

で、まぁアンキモ食べたら栗田さんは「美味しい」って素直にいうわけですよ。それに比べ食通の方々は「ま、まぁ決してまずいとは言わんがね…こんな下等なものと比べようも…」と認めないわけですよ。

これに対して大原社主は「フォア・グラにはない鮮烈さがあるな、少しも生臭くなく豊かな香りだ…」とアンキモを評価します。この時は珍しく富井副部長も「アンキモの方がこってりしているのに、味が純粋で澄んでいますな!」と真っ当な発言をしています。そのくらいわかりやすいということなのでしょう。きっと。

というわけで、負けを認められない食通の皆さんに対して「あなた方には自分の下にかけて新しい美味を発見しようとする気構えが見受けられない。」と言い、大原社主は見切りをつけます。

ここ、相当重要だと思うのです。前回は「人類の文化のたどり着いた究極の物」と言いましたよね。

極まった文明の最終形態を記録しようという、いわば後ろ向きな姿勢だったのに対して、今回は「新しい食の文化を切り開く」という前向き、これからも良くなるって言う、進歩的な歴史観に改めて立つに至るのでした。これが裏テーマの転向なわけです。

加えて、ここで山岡が「深海の自然の中で育った健康そのものの鮟鱇の肝臓と、人間の小賢しい悪知恵で作り出した病的な肝臓のはたしてどちらがうまいか?!」と自然主義的な発言をした後に、Aパートの伏線回収までします。取れたてを調理した鮟鱇の肝とは反対に、川本氏が取り寄せたフォア・グラを「フランスから送ってきたフォア・グラとでは、鮮度も天と地の差がある」と「豆腐」の話で出てきた鮮度の重要さをここでも強調しています。

小ネタ

小ネタとしては栗田さんが山岡の行き先を尋ねる社員の声が、エヴァの加持さんの声でお馴染み山寺宏一さんですね。「やっこさんなら今さっきでてったよ。」っていうのが「でも、君の唇は止めてくれとは言わなかったよ。君の唇と君の言葉、どっちを信用したらいいのかな?」ってこのエヴァのセリフの伏線になってますね。

あとはアンコウを茨城の那珂湊沖に取りに行くのですがで、現代においてはアンコウと茨城といえば、もうね、大洗ですよ。ガルパンですよ。ガルパンの水島努監督は美味しんぼの120話「ジャンボ茶碗蒸し」124話「恥ずかしい料理」127話「二人の花嫁候補」の演出を担当しています。

おしまい!とぅーおば〜す。

以上、トゥ〜・オブ・ア〜ス